英語の『the』と日本語の『その』の使い方を区別しよう

「犬」は‘dog ’ですよね。だから、たとえば「私、犬がほしい」と言う場合、その「犬」はただ‘ dog ’ と言えばいいんだろ? と思ってしまいますよね。

ところが、ちがうんです。しかも、「私、犬が好き」になると、同じ「犬」でも、またちがうんです。

「犬」「車」「母」「事件」そのほか何でも、何かのものや人やできごとなどのそういう一般的な呼び名(名称) は、「名詞」といいますよね。

名詞を言うときには、日本語とはちがうルールがあります。それをここで見ていきます。



指示語+ もの( 人)

トムとボブが実際に新宿の街を歩いているとしましょうか。

ペットショップを見かけて、二人はそこに入ったとします。ト ムの家族は、犬を飼おうとしているのです( とくに弟が)。

犬のコーナーを見ていて、トムが「この犬がほしいな」と言 いました。これ、英語でどう言うか?

A パターンで、主語は自分。だから、「ボク( I )、ほし い( want )、この犬」の順で、“ I want この犬. ” です。

「この犬」の「この」と指すことばは‘ this ’。これに‘ dog ’をつづけて‘ this dog ’ とすれば、「この犬」の意味になります。

なあんだ、日本語の言い方( しくみ) と同じじゃないか、ですね。

はい、この場合は同じです。トムは“ I want this dog. ” と言 ったのです。

「この犬」と言われた犬は、「この」によって、たくさんい る犬の中のどれかに決まりましたよね。目を離 しても、「顔」 ( 姿・特徴) が目に浮かびます。いわば「顔の決まった犬」に
なりました。


犬でも何でも、何かのもの( 人、できごとを含む) を一つに 決めて( 特定して) 言うときは、日本語の言い方と変わりませ ん。「あの~ 」「その~ 」と言っても同じです。

「あのペン」は、「あの= that」と「ペン= pen」をつなげて、‘ that pen ’ です。「その机」は‘ the desk ’( その= the、机= desk)、「あのできごと」は‘ that event]’ です。

「この、あの、その」を「指示語 」といいます。何かを特定 して指し示す語、ということです。

「私の~ 」「君の~ 」も同じです。「私のネコ」は私が飼 って いるネコのこと、「君の母」は、世界中の他の母親たちと区別さ れた一人のことで、どちらも「顔」が決まっています。だから、「私の」= ‘ my ’、「君の」= ‘ your’ も指示語の一種です。「彼の」= ‘ his ’、「彼女の」= ‘ her ’も同様です

したがって、「私のネコ」なども、「この犬」と同じく「指示 語+ 名詞」の形で言えば済 みます。


オレ、おまえの車がほしいな: I want your care .
注意:「私、ボク、オレ」や「君、あなた、おまえ」は、 英語では区別がなく、いずれも同じ語を使います。

「トムの車」「私の母の帽子」などと言う場合も、どれを指 しているのかは決まりますね。だから、「トムの」「私の母の」 も、指示語と同じ働きをしています。

それらは、人の数だけあるので、指示語とはいいませんが、 同じ働きだから、その仲間と見ておきましょう。
トムの車: Tom’s car
私の母の帽子: my mother’s hat
彼の妹のバッグ: his sister's bag
注意: 人の名前などに「~ の」をつけて所有者を示す ときは、名前などに「’ s 」= アポストロフィエス を加え ます。

名詞を言うときは、上のように指示語を前置きにすることが 多いのです。

英語の場合、実際に文の中で使われている名詞の約5 4 %は、この「指示語+ 名詞」の形です。名詞の半分強は日本語と同じ感覚で表現 すればいいのだから、楽 です。

でもね、日本語の次の習慣は、英語用にあらためないといけ ませんよ。

「私、母が好き」( 指示語に慣れよ)
だれかが「私、母が好きです」と言ったとします。

この「母」は、それを言った本人の母のことですね。「母」 と呼ばれる人ならだれでもいいわけではありません。したがって、“ I like my mother. ” と言わなくてはダメですよ
注意: 家の中か親しい人とのあいだでは、その「母」を‘ mother ’‘ Mom 言うだけのこと もあります。Tom などと同じ呼び名のように使 います。

日本語では、「だれの~ 」なのかが明らかなら、いちいち「私 の~ 」などとは断りませんよね。

「きのう、友だちがね、・・・」 と話しはじめれば、自分の「友だち」のことであるのは明らか
だから、「私の友だちがね、・・・」と言わなくても済んでしま います。

ところが、英語では、きちんと断るのです。どれを指してい るのかが明らかであるからこそ、「顔」が決まっていることをち ゃんと断るのです。

「私、私の母が好き」ではくどいように思えますが、ここが 日本語の感覚とはちがいます。「英語の目」です。

「指示語+ 名詞」は日本語と同じしくみとはいえ、指示語を 省 く習慣にどっぷりつかっていると、うっかりしますよ。この 「英語の目」には早めに慣れておくことです。



指示語+名詞の感覚を身につけるトレーニング

たとえば、次の( a ) ~ ( g ) の日本語はごくふつうの言い方です が、紫色の文字の部分は英語でどう言うでしょう?

( a ) ( 玄関で) こんにちは。お父さんいら
っしゃいますか?
( b ) 彼は自分の妹がきらいなんだよ。
( c ) 暑いね。を開けていい?
( d ) 私、きのう、サイフをなくしちゃった。
( e ) ( 小さな子に) お名前は何ていうの?
( f ) トム? とどっかへ行ったよ。
( g ) ( 食事中) ちょっと砂糖を取って。

( b ) 以外、それぞれの名詞には指示語がありません。でも、どれもこれも決まった人やものを指しているはずですよね。指示語が必要です。上のことばが語られた場面を想像すれば、どの
指示語が必要かがわかります。

( a ) だれかが知人の家にやってきたら、そこの息子さんでも玄関に出てきたとしましょうか。
「お父さんいらっしゃいますか」の「お父さん」はその息子さんの父親に決まっていますよね。「あなたのお父さん」です。

日本人なら、日本語で「あなたのお父さんいらっしゃいますか」と言われると、キョトンとするでしょう。答= your father

( b ) 「彼」の話なので、「自分の」とは「彼の」のことです。これを「私の( my )」と言ってしまったら、この( b ) を語っている人の妹のことになります。そうすると、「彼は、私の妹がきらいなんだ」の意味になってしまいますよ。「自分の」はだれの話かによって指示語を選びます。
答= his sister

( c ) どこかの部屋に入って「暑い」と感じたのでしょうから、「窓」はその部屋の窓に決まっています。バスなどの中なら、そばの窓です。開けたい窓は決まっているし、相手もどの窓か
はわかっているだろう、と話し手は思います。

日本語の場合、そういうときは、わざわざ言えば「その窓」でしょうが、実際にはあまり言いませんね。言ってしまうと、かえって聞き手は「え? どの窓? 」と迷い出すことになりかねません。決まり切っているから、さっきの「お父さんいますか? 」みたいに指示語は言わないのが日本語です。

ところが、英語の場合は、何を指しているのかが決まり切っているからこそ指示語を言うのです。わざわざではなく、いつも自然に‘ the window ’ と言います。
答= the window

( d ) なくしたのは自分のサイフでしょ。この「自分の」は、こんどは、これを語っている本人のことです。
答= my wallet

( e ) 目の前にいる子どもに向かって「お名前は? 」と聞いていますから、「あなたの名前」ですね。答= your name

( f ) トムは自分の「弟」と出かけたのでしょう。主語を補って言えば、「トム? 彼は弟と… … 」という文になります。だから、「弟」とは「彼の弟」のことです。
答= his brother

ここをTom's brotherと言うと、「トム? 彼はトムの弟と… … 」となって、かえっておかしくなります。別人のトムかと思ってしまいます。その点は、日英とも同じです。

ただですね、この( f ) を語った本人にも弟がいるとすると、この日本語では、その人の弟( オレの弟) とトムは出かけたのかな、とも思えますよね。両者にそれぞれ弟がいる、ということ
を知っている人だったら、「どっちの弟と? 」と聞きたくなりますよね。

語った本人はどちらの弟なのかは知っていますが、日本語の場合、ついつい「弟」ということばだけが口をついて出てきてしまうことがあります。

英語は、はじめから‘ his brother ’( 彼自身の弟) か‘ my brother ’( オレの弟)のどちらかで言っているのです。だから、( f ) が英語なら、「どっちの弟と? 」という疑問は生まれません。

( g ) 食事中ですから、テーブルにある砂糖ですね。手が届かないから「取って」と言っているのでしょう。どの砂糖を指しているのかはテーブルにいる人なら互いにわかるはずです。だから、前の( c ) と同じです。
答= the suger

指示語のthe「砂糖を取って」「窓を開けて」の「砂糖」「窓」は、日本語ではわざわざ「その~ 」とはあまり言いませんね。言わずと知れているからです。

ところが、英語は、むしろ、言わずと知れているからこそ、互いにわかっているという印の意味で‘ t h e ~ ’ なのです。

‘ this ~ ’‘that ~ ’ は、どれであるのかをいまはじめて特定するというときに使う指示語です。それが人やものであれば、指さしや視線も使って特定します( this とthatの差は、日本語の「この」「あの」と同じく、距離感のちがいです)。

それに対して‘ the ~ ’ は、どれであるのかが聞き手もわかっているときに使う指示語です。いわば‘ 以心伝心’ を前提にした指示語なのです。

だから、指さしや視線で対象の人やものを示すことはかならずしも必要とはしません。本を読みながらだれかに「窓( the window ) を開けて」と言えます。

だから、もちろん、すでに話題になっていた( たとえば)‘ a dog ’ にふたたび触れるときは‘ the dog ’ になるのです。

もはや、どの犬のことなのかは言わずと知れていますからね。

つまり、話し手にも聞き手にも分かり切っているもの( どれなのかをわざわざ断るまでもないもの) を指すときに使うのが‘ the ’ だ、ということです。




theの使い方 固有名詞でtheをつける場合、つけない場合

the 太陽、the ピアノ
そうすると、太陽も、世の中に一つしかないから、これぞまさしく互いにわかりあっているものですね。そう、‘the sun’ です。言わずと知れた「太陽」です。次も同様。

地球:the earth
月: the moon
空: the sky
世界: the world

ただし、「満月」「新月」、「青空」「曇り空」などといろいろと変わる姿を言う場合は、‘ the ’ は使いません

互いにわかりあっているものでも、人名、地名などの固有名詞には‘ the ’ をつけません。そのままです。

ところが、次の固有名詞では冠のように‘ the ’ を前置きにするのです( 代表例だけにします。他にもたくさんありますよ)。
聖書: the Bible
アルプス山脈: the Alps
テムズ川: the Thames
太平洋: the pacific

これらの場合の‘ t h e ~ ’ には、「これぞ、われらの~ 」のような敬意が見えます。王冠のような重みです。

日本人も、「御山」、「お月様」、「御天道様( お日様)」と言ったりしますね。「御、お」に「様」も加えています。「御天道様に申しわけない」という古い言い方もあります。それに似た「敬意」かもしれません。

それなら、「山」はどうか? 世界最高峰のエベレストでも‘ Mount ( 略してMt . ) Everest 、富士山も‘Mt.Fuji ’ です。

ところが、アルプスの高峰マッターホルンはちがうんですね。

‘ the matterhorn ’ です。‘ Mt. ’ なしです。「マッターホルンと言えば、これぞわれらのあの山」という感じで、西洋の人々の目ですよ。
 


もっと特殊に見える冠詞『the』の使用方法

「午前」「午後」も、‘ the ~ ’ です。
「午前」と言えば、言わずと知れた「日の出から正午までの時間幅のこと」ですね。人は「一日」を基準にして生活しています。

「午前」は一日に一度と決まっています。それを指すから‘ the ~ ’ です。

「午前5 時に起きた」などと言うときの「午前」は‘ ( in ) the morning 、「午後( 昼= 正午から日没まで)」は‘ ( in ) the afternoon’、「午後( 晩= 日没から夜まで)」は‘ ( in ) the evening’ です。

時刻も一日に一度ですが、刻々と変化してしまうので‘ the ’は使いません。

「5 時に」は‘ at 5 ’ です。

「正午」も、さっと過ぎてしまいます。時刻扱いにして、‘at noon’ です。

「夜」( night は、「暗くなってから日の出まで」のことを指す場合は‘ the ’ を使いますが、たいていは寝ていて意識にありませんね。

寝る前までの時間幅は‘ ( in ) the evening’ が引き受けているので、「夜に何かする」場合の「夜」は、そのときだけを指します。「正午」と同じに扱って‘ at night ’ です。

何かの楽器を「弾く」と言う場合にも、楽器に‘ the ’ を前置きします。たとえば、「ピアノを弾
ひく」と言う場合の「ピアノ」は、‘ the piano ’ です。

ピアノという物は、たたけても、弾けません。「弾く」は、それを使って「音を奏でる」「ピアノ曲を演奏する」ということです。‘the piano ’ と言ったら、言わずと知れたその意味で、物としての「ピアノ」と区別します。

こう見てくると、日本語の「その」とはだいぶちがいますでしょ? 「言わずと知れた~ 」「これぞ~ 」の感じが奥底にあると見ると、広い範囲の‘ the ’ が見えてきます。

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